ピンポーーン




チャイムの音に百合は少しだけ小走りにインターホンまえに立つ。
「はぁい」「ひらけ、ごまー」
目深にかぶったパーカーで誰かを判断し、ドアを開ける。

「ごまー」「おはよ」
あ、いい匂いがするよーと言いながら入ってきたのは椿だ。
「マフィン作ってたから」「女だね」勝手知ったる我が家、とばかりに着ていたコートとマフラーを窓際に掛けてオーブンを覗き込む。
「椿はやればできるのに全然やらないもんね、」「やる気を出すのが遅いの」



「…………椿、今日さあ」



電話してる時に男の人の声がしたけど、遠距離の彼氏来てるの?
にっこり、と笑った百合に椿もにっこりとして眼を細める。
「……………オトモダチだよー」
「んもーー!!!ほんと最低!セックスしたでしょ!」
「しました!」「しましたじゃねーし!!」
ばふん!とミントグリーンのクッションを顔面に投げつけられた椿がへらへらと笑う。
「今度という今度は性病になるからね!!」
「いや、相手は選んでるんだって!」「選んでないし!!」
カレシにバラすよ??!!!!!!と言う百合は、避妊したの??!とよくわからない確認をとる。

「避妊はばっちり!」「それでもさいてー!!!」

このヤリ◯ン!!!!と酷い言われようだが、椿がしょぼんとした顔で百合の顔を覗き込むとうっ、と百合の顔が歪む。
「今度こそ百合に嫌われた?」「……嫌いにはならない………けどー」

なんだかんだ、百合は椿に甘い。

椿は自由で縛られない。
椿を束縛したり、規律したりする男はみんな椿に拒絶されていったのを、百合は知っている。
確かに椿は浮気の常習犯でやってることは最低だと思う、思うが。
その昔、百合がその真面目さから百合によって傷つけられても笑ってくれたのは、椿だけだった。
百合には、椿を否定することなんて出来ないのだ。

椿が、百合をけして否定しないように。



「で?今度はどこのだれとやらかしたの?」
「わかんないwww」




やっぱりクズ!

そういいながら、百合は焼きたてのマフィンを机に叩きつけるのだった。