幻聴レクイエム





「お話し中失礼します」


お盆の上にカップを伸せた碧がいつの間にか横で立っていた。


目で久遠に何らかの合図を送ってから腰を降ろし、右足を曲げて英の前にカップを置いていく。


「はい」


「ありがとうございます」


「熱いので、少し冷ましてから飲んでください」


「あ、はい。分かりました」


碧は、英の次に久遠の前にカップを置いた。


そのまま後ろに下がろうとした時、然り気無く彼の耳元へ口を持って行き、何かを囁く。


「嘘臭いですよ」


半分、呆れながら言ったつもりで言うが、久遠は顔色一つ変えないで話を進めた。


「お客様の心はデリケートですから、丁寧に扱っているだけですよ」


「後で灰里さんに言っときますからね」


ある言葉に一瞬だけ反応し、碧の顔を見つめる。


「彼女なら言わなくても直ぐにバレますよ。」


久遠は妖しい笑みを浮かべ、目の前にあるカップをゆっくりと飲み出した。