幻聴レクイエム





只の質問なのに彼の威圧感に当てられて、動揺を隠せない。


「何でそんなことを…」


「依頼に関わるから聞いているだけです」


ギラギラと輝く右目が英を支配し、彼女の目に映る全ての色を次第に灰色へと変化させる。


何も考えられない。


体が思うように動かない。

今の彼女に映るのは、目を光らせ不気味に笑う久遠の姿だけだった。


「…っ」


「そんなに怯えないでください」


久遠は左手ポケットから小さなケースを取りだし、一番上にあった紙を手に取り、英に見せつけた。


「貴方は知っているはずですよ。この名刺の意味を」


「…!」


「では、もう一度聞きます。貴方は幸せになりたいですか?それとも不幸になりたいですか?」


震える体を必死に抑えて、英は口を開く。


「幸せに、なりたい…です」


彼女の答えに久遠は、一瞬だけ目を伏せる。


そしていつものように微笑んだ。


「契約成立です」