「か、帰ってきたで、桂木さん……!」


誰かがそうささやいたのが聞こえ、ざわついていたオフィスがシーンと静まり返った。


外回りから戻ってきた桂木さんが、いつも通り大股で自分のデスクへと歩いていく。


フロアの社員は皆、仕事をする振りをして、その様子をうかがっていた。




桂木さんが流れ星に転属になるという人事異動は、もう周知のこととなっている。


だから、同情?憐れみ?興味本位?
そんな視線が容赦なく彼に向けられていた。


その気配を感じるのか、桂木さんが顔をあげると、みんな一斉に目を逸らした。




中村課長や一課のメンバーはほぼ出払っていて、桂木さんはひとりデスクで書類の整理を始めたようだった。


なんだか胸が押しつぶされそうで、顔を伏せ、わたしも作成中の書類の検算に戻る。




そうして電卓を叩いていると、不意に真横で声がした。


「沢井さん」



誰の声かは、すぐにわかった。