うろたえながらキッチン台に向かい、ドリップの終わったガラスのポットを引き受ける。


「あ、わたしが淹れます」


用意されたカップにコーヒーを注いでいたら、後ろからふんわりと抱き締められた。


え……。

不意打ちにドキッとする。


「桂木さん?」


振り向こうとするけれど、そのまま大きな体にすっぽりと包まれてしまう。


「全部……オレのものにしていい?」


吐息がうなじを湿らせるように、低音の声がそうささやいた。


ドキドキしすぎて、
声が出なくて、

わたしはただ……コクンとうなずいたんだ。





「おっしゃ、のれん出して」


大きな声で我に返った。


「はーい」


うるるんが小走りで入口へ向かっていく。


厨房へ目をやると、声の主……。

同じ会社の後輩で、
一つ年上の同僚で、
がんばり屋の店長。


優しくて
温かくて

ちょっとダメなところもあって

でも男らしくて……




大好きな人――。








FIN