ん?

なんとなく視線を感じて奥を見ると、寸胴鍋でだしを取る桂木さんが、コンロの前で腕組みをして立っている。

で、その体をひねって、チラチラとこっちを見てくるねんけど……?

何か言いたげに。

プ。無視無視。


わざと素知らぬ顔をしてキャベツを切っていると、とうとう横に桂木さんがやって来た。


「トシ、ちょっといい?」

「は? なんですか?」


オレが目線をあげると、店長はめっちゃ神妙な顔つきで立っていた。


「ゴメン……。沢井さんのこと、好きになってしまった」


そんで、困ったようにそう告げる。

ブッハ、今さら?


「えー、かぶってるやん」


思いっきり迷惑そうにしてやると、さらに気まずそうな声をもらした。


「う……ん」

「桂木さん、もう恋とか、やめとくんとちゃうん?」

「そのつもり……やったんやけど、な」


オレの意地悪に、店長の返事はどんどん歯切れが悪くなる。


「で? 淡―いやつ?」


ダメ押しでそう聞くと、


「いや、濃いやつ」


と、なぜか桂木さんはそこだけきっぱりと断言した。