「あほやな~、トシ。よかったん?」


振り返ってアズの後ろ姿を見送ってると、横からうるるんが声をかけてきた。


「まだおったん?」


ふたりで駐輪スペースまで歩きながら、ちょっと話す。


「アズちゃんのこと好きなくせに、やせ我慢しちゃってさ」


うるるんがあきれた声を出す。


「そっちこそ桂木さんのこと、マジで好きやったんちゃうん?」


オレがそう突っ込むと、うるるんはいつになく素直にうなずいた。


「う……ん。だからこそアズちゃんとのこと、応援してる……」

「あー」


その気持ちはよくわかる。

そーいや、ずっと前にアズもそう言ってたっけ。

『好きな人の幸せを願う人間でいたい』って。


桂木さんのことを一途に想うアズの幸せを、オレだってかなえてやりたかった。

フラれたって、どーせアズはあの人のこと、あきらめきれないんだろうし。


「でもなー、ときどき黒い気持ちがぐるぐるって、うずを巻いて押し寄せてくるねん……」


うるるんがポツッとつぶやく。


「あー」


それもわかる。

桂木さんの腕の中で、アズはどんな顔をするんだろう……?

恥ずかしそうに……笑う?

それはオレじゃあダメなのか?


何度となく打ち消した想いが、何度となく頭をもたげる。

その笑顔を自分のものにしたくて……。