そのまま閉店まで、うるるんとトシくんと3人で営業を続けた。
「ハイ。ガス消した、空調消した、……」
店内の掃除を終え、最後の確認をしていると、トシくんが近づいてくる。
「アズ、今夜が勝負やで」
意味深にそうささやかれた。
「ん、なに?」
「桂木さんを落とすチャンス」
「は?」
「きっと今ごろベロンベロンに酔っぱらってるから、介抱しにいけ、アズ」
えーっ?
「ム、ムリ! 家知らんし」
「家ならオレが教えたる」
「で、でも」
「心配になって様子見にきたって言えばえーねん」
いや、でも……。
「アズちゃん、それいいやん。酔いつぶれてる店長を押し倒して、既成事実作っておいで」
うるるんまでやってきて、そんな大胆な発言をする。
「待ってよ。人が傷ついてるときに、そこにつけこんでそんなこと……」
「傷ついてるときやからこそ、アズちゃんに頼んでるんやん。いつまでも別れた奥さんのこと引きずって、さみしくて悲しくて……。店長は今、ひとりで泣いてるねんで。あのときみたいに」
うるるんが声を詰まらせる。
わたしもそうだけど、うるるんもトシくんも、みんなあの日の桂木さんの姿が忘れられないのかもしれない。
はがしてもはがしても、リカコさんを抱き締めて離さなかった桂木さんの姿を。



