「じゃーね、慎ちゃん」
食事を終えると、リカコさんはそう声をかけ席を立った
「ありがとうございます」
桂木さんは他のお客さんが帰るときと同じに、大きな声をあげる。
「「ありがとうございまーす」」
それに呼応するように、わたしたち店内のスタッフも声をあげた。
急いでレジへ入り、リカコさんに渡された伝票を精算する。
「リカコさん、あの……」
何を話せばいいのかわからない。
「沢井、お幸せにね」
それでもリカコさんは、あでやかな笑顔を残し、颯爽と店を出ていった。
コツコツとヒールの音を響かせて。
「よかったん、店長?」
厨房でうるるんが桂木さんに聞いている。
「チャンスだったかもしれへんのに。
『子供を作ってオレとやり直そう』って言ったら、リカコさんきっと飛びついたよ?」
「あかんあかん。あとになって『やっぱゴメンね~』って言われるのがオチやねん」
トシくんが即座に否定した。
「まぁ……オレがいると、リカコはホントの気持ちから逃げてしまうからな」
桂木さんは穏やかな声でそう答える。
「あとは彼女が自分で考えることやから」
他人事のようにそう言った桂木さんの顔を、3人してチラ見する。
というか、直視できない。



