「ヒョウ六は? 幸せにやってるんやろ?」
わたしが鉄板の上へ差し出したチリトリに、お好み焼きを載っけながら、桂木さんが聞く。
「もうええねん、あんなやつ」
リカコさんは口を尖らせてそう言った。
「せっかく一緒になったのに、ヒョウ六ってば子供はいらんって言うねん。前の奥さんとの間に男の子がひとりいて……」
そこでリカコさんは声を詰まらせる。
「その子がかわいそうやって言うんよ。自分を捨てた父親が、他に子供を作ったって知ったら傷つくって」
トシくんのコテの音がカチャカチャと、やたら大きく響きだす。
「そんなことはじめからわかってることやん」
なんて、かなりイラついているらしい。
「えっと、10番さん、豚玉持っていきます」
わたしはそのままホールへ出たから、あとの会話はわからなかったけれど、チリトリを置きに戻ると、話はまだ続いていた。
「わたし、いつもまちがえてばっかりで……。やっとそのことに気がついたよ。慎ちゃんと続けていたら、いっぱい子供を作って幸せになれたのにね」
そうしんみりと話すリカコさん。
「あ、沢井さん。これ、カウンターへ」
リカコさんが頼んだお好み焼きが焼きあがったらしく、桂木さんは普段どおりの指示を出した。
「は、はい」
わたしが焼き場を出てカウンター席に向かうと、リカコさんは真っすぐに桂木さんを見つめている。
長いまつ毛に縁どられた大きな瞳で。



