そんなある日のことだった。
あの人がこの店を訪れたのは。
「あ!」
夜10時過ぎ、入り口から入ってきたその人を見て、接客中のトシくんが声をあげる。
大きな瞳がこっちを向いて、親しげな声があがった。
「沢井~!」
「え、リカコさん……!」
ちょうどテーブルを片づけていたわたしが、そう答えたときには、彼女はもう前を向いて歩き出していた。
コツコツとハイヒールの音を響かせて、カウンター席へと真っ直ぐに。
カウンターの向こうには、桂木さんが立っている。
ポカンと口を開けて……。
「慎ちゃん、お久しぶり」
リカコさんが席に着きながら、桂木さんに手をひらひらとさせるのが見えた。
「は? どのツラ下げてここに来れるねん」
トシくんがそう吐き捨てながら、厨房へと戻っていく。
下げた食器を手に、わたしもその後ろをついていった。
すると、鉄板の前でフリーズしている桂木さんの姿が、視界へと入ってくる。
キレイなリカコさんの顔を見たまま、動けなくなっている姿が……。
「最後に会ってから、もう半年になるかな?」
明るい声でそう聞かれて、
「う……ん」
と低く答えた彼の声が聞こえた。



