店に着き、入り口のカギを開ける。

昨日早退した分、今日はしっかり働かなくちゃ。

この上同僚としての信頼まで失ったら、
自分の存在理由がなくなってしまう。

桂木さんだけじゃなく、店のみんなと築いたものを、簡単に手放したくない。



「あ」


客席のテーブルをごしごし拭いていると、桂木さんが出勤してきた。


「えっと……」


戸惑った顔。

何を言えばいいのかわからないんだと思う。


「昨日はすみませんでした」


先にそう言って頭を下げた。


「いや……」


言葉を探しあぐねたまま、桂木さんはわたしを見つめる。

こういうときでもその目をそらさないのが、自分の罪深さだと知らないんだ。


「沢井さん。

オレ、アホやから……ゴメン」


やっと探した言葉がそれだった。


「うん、知ってます」


そう言っておく。

想っていてもしょうがない人を
想い続けて
苦しくて苦しくて……。

わたしもアホやもん。


ホールと厨房に分かれて、わたしたちは無言で開店準備を続けた。