事務室を出ると、対面のテーブルを片づけていたうるるんと目が合った。


「トシ、ナイスフォローやん。アズちゃんの笑い声聞こえて来たで」


なんて言われた。


「あー……、マジで告ったら笑われた」


この際、自虐ネタを披露するしかなく……。


「え、」


爆笑されるかと思ったのに、うるるんはやるせな~い顔をした。


「あんたも切ない恋してんねんなぁ」


な~んて。


厨房に戻ると桂木さんは黙ってお好み焼きを焼いている。

なんかムカつくし……。


「アズ、店辞めるって言うてました」

「えっ」

「フン、ウソやし」


慌てた顔を見てから、鉄板の前に立つ。


「言っとくけど、桂木さん。オレに遠慮とかしてないですよね?」


バインダーの伝票を見て、オレは鉄板に油を引いた。


「なんの遠慮?」

「オレがアズのこと好きだとか言ってたから」

「あー……」


桂木さんはコテを持つ手を休めずに、鉄板に目線を落としている。


「じゃなくて……、

オレにあの子は……もったいない」


独り言みたいに、桂木さんはそう言った。


「あっそ」


オレもカチャカチャと焼き飯を作り始める。


あのなー……。

今はリカコさんのことでダメージ食らってるんやろうから、ガマンしとくけど、

あと半年経ってもそんな寝ぼけたこと言うてたら、もう知らんからな。


わりとマジでそう思った。