「だいたい桂木さんは優しすぎるねん。リカコさんのこと、あんなに想ったることないやん。もっと怒れよ」
ずっと思っていたことを口にした。
「あんな、トシ……」
すると桂木さんは静かに言葉を返す。
「怒ったに決まってるやん。なじったり怒鳴ったり、嫉妬に狂って何度もケンカした。最低なことも言うたし、オレだってリカコを傷つけてきたんやで」
「桂木さん……」
オレは思わず桂木さんの顔を見た。
「それでもどうしても最後に残る大事な気持ちがあって、自分さえ強い気持ちでいたら、何とかなるんちゃうかって思えたんや」
「最後に残る気持ち……」
それはその人を想う『好き』って気持ち?
「リカコも一時はそういう気持ちになってくれてな、ヒョウ六と別れて、もう一度ふたりでやり直そうって決めてくれた」
「え」
両腕をあげ、グウッと後ろに伸ばすようにして桂木さんはシートに沈み込む。
「そんなとき、あいつ離婚しよってんな」
「え、ヒョウ六?」
「うん。反則やろ? そんなことされたら、もう太刀打ちできへんし、オレ」
今まで軽めのトークを交わしていた桂木さんが、しばらく黙り込んでしまう。



