そのとき鉄板の向こうで、電話が鳴った。
バッグからスマホを取り出したリカコさんは、相手を確認しただけで、電話には出ない。
「迎えに来てるん、ヒョウ六」
「うん、まぁ」
「ほんならもう行き」
桂木さんはそう言うと、コーラのグラスに口をつけた。
「ありがとう、慎ちゃん」
「うん……」
「じゃあね」
リカコさんが席を立ち、足を踏み出したとき、突然ガタッと、桂木さんが立ちあがった。
「リ、リカコ」
「ん?」
ちょっと驚いたように、大きな瞳が桂木さんを見あげる。
「一度も……なかった?」
一瞬、躊躇したような間を飲み込んで、桂木さんの言葉が声になった。
「つきあってから今まで、リカコの中でオレが一番になったこと、一度もなかったん?」
その大きな瞳を、桂木さんは真っ直ぐに見つめる。
「あ……ったよ。こんなにヒドイことして傷つけたのに、慎ちゃんはいつも男らしくて、優しくて……。このまま慎ちゃんと幸せになろうって、何度思ったことか……」
リカコさんの顔が歪む。
「だったらオレ、今のままでもええから」
桂木さんの手が、ガシッとリカコさんの腕を掴んだ。



