「お~い、ビールまだ?」
そのとき客席からそんな声がかかった。
「は~い、ただいま」
後ろを振り向きながら、アズは答える。
「あの、わたし今日ハンコ持ってないから、サインはゴメンなさい」
それからリカコさんにそう言い残して、アズは厨房へと戻っていった。
「あっ、オレもハンコ持ってないです。すんません!」
すかさずオレも断りを入れる。セーフ……!
「そっか~。じゃー弟夫婦に頼もっかな。それでいい、慎ちゃん?」
「初めっからそーやろ」
桂木さんはムクれている。
そんなこんなで書類の記入が終わると、ふたりは揃って小さなタメ息をついた。
「できた……」
「うん……」
「わたし、明日にでも慎ちゃんのお母さんに会いに行って来るね」
離婚届をバッグに収めると、リカコさんは言った。
「お義母さんもお義父さんも優しくしてくださったのに、裏切ってしまって……。わたし謝らなきゃ」
へ~。この人でも一応、そーゆー感情はあるんや。
「えーよ、そんなん。親にはオレから話しとくから」
「でも……」
「そっちは? リカコの実家、挨拶行ったほうがええかな?」
桂木さんが穏やかに聞いた。



