「ゴメンね、都合悪くなっちゃって。『今から行っていい?』って、さっきメールしたんやけど?」


美女はすまなそうに、顔の前で両手を合わせた。


「仕事中はスマホ見てないし、今からは忙しいからムリ」


桂木さんはつっけんどんにそう答える。

めずらしいな。いつも穏やかな桂木さんが、こんな不機嫌に人に対するのは……。

いや、でも……

3時の約束をすっぽかされて今、ってことみたいやし……。


「えへへ。じゃ~、食べながら待っとくね」


それでもその女性は、ちっとも悪びれずに弾んだ声を出した。


「わたし、慎ちゃんがお好み焼き屋さんやってるとこ、いっぺん見てみたかってん」


し、慎ちゃん……。


「は? なんのために?」


眉間にしわを寄せ、低~く聞く桂木さん。


「だってわたし、慎ちゃんの働いてるとこって、スーツ姿しか知らんもん。こーゆー姿も男っぽくて、すっごく似合ってる。うん、めっちゃカッコいいよ!」


はしゃぐその人とは裏腹に、桂木さんは黙って、落としたコテを拾う。


「ないわ、リカコ……。マジ意味わからへん」


そう吐き捨てながら洗い場へ行き、バシャッと乱暴に、そのコテを洗い桶に突っ込んだ。

おお……。ものに当たる桂木さんも初めて見る。