「んじゃ、行こか」


ひとりでほっこりしていると、不意にトシくんがわたしの手を取った。


「えっ?」

「急がなヤバいで。もう4時になる」


なんて、もう前を向いて歩き出す。


「で、でも、まだ余裕ちゃう?」

「あかん、あかん。着替える時間も要るしな」


今度は手首ではなく、トシくんの右手はギュッと、わたしの左手を包み込んでいた。


「着替えるったって、トシくんそのジャンパー脱ぐだけやんか」

「ハハ。えーからえーから」


朗らかに笑いながら、トシくんはわたしの手を引いて、人混みを縫っていく。

えっと……。

なんだか振り払えなくて、そのまま手をつないで店まで戻った。




「あ!」

「え?」

「わっ」


店に着いた瞬間、トシくんがわたしの手をほっぽり投げ、わたしたちはバネ仕掛けのように、お互いの体から飛びのいた。

思いがけず店の前に、桂木さんが立っていたから。


「ち、ちがうで」


慌てて言うトシくん。


「何が?」


ポカンと聞く桂木さん。


「えっ、」


わたしたちが手をつないでいたこと、桂木さんは気づかなかったみたい。