「あ、あのっ、トシくんって15歳からお店に出てるんですか?」
そうそう、それを聞いておかなくっちゃ。
すると海堂さんはヒャッヒャッとヘンな声を立てて笑った。
「ムリムリ」
「ムリって?」
「話が盛られてそういう伝説になっとるらしいけど、当時のトシヤときたら、ほんまにガキやったんですよ。背も低うて童顔やし、あんなんが黒服着たら、まるで七五三ですねん」
「七五三?」
「うん。ランドセル背負わせたら、そのまま小学校通えるんちゃうかってくらいやったから、なんぼボクでも店には出されへんかったなぁ、捕まりたくないもん」
そう海堂さんは言った。
「しゃーないから18歳になるまで、ボクのマンションに住まわせて、家事全般と、こんなふうに営業前の店の掃除をさせとった。かなり厳しく仕込みましたよ。何せ相手は生意気盛りのクソガキやからね。今思えば日々ほぼ虐待でした」
「ぎゃ、虐待?」
「でもまー、あいつの財産になったと思いますよ。そーしてボクに叩き込まれたことは」
なんて、またもや海堂さんは胸を張る。
「掃除っていうのはね、一点の曇りもなく磨かなあかん。今でもときどきチェックするんですわ。トシヤがどんなふうにトイレを掃除するんか」
顔をあげた海堂さんの目線には、鏡に映ったトシくんの姿があった。
トイレの床に這いつくばり、ゴシゴシと丁寧に雑巾を動かしている。



