「つまりボクは、単に改装費用の手助けをしただけじゃなく、お前のオトンやオカンやおじい、それにお前の二人の姉ちゃん達の人生までをも、救ってしまったワケよな」
さらに海堂さんはそう言って笑い、これ以上はないってくらいに踏ん反り返った。
ほんまに恩着せがましいな、この人。
無関係のわたしでもちょっとイラッとするくらいなのに、さっきまでとは打って変わって、トシくんは一言も言い返さなかった。
あの勝気なトシくんが……。
「おいトシヤ、便所掃除して行けや」
それから海堂さんは踏ん反り返ったままそう言った。
「あー……うん」
意外なほどあっさりと引き受けて、トシくんは席を立つ。
そうしてこの席の並びにあるドアノブをひねり、中へと消えていった。
開けっぱのドアの奥に、広くて美しいトイレ兼パウダールーム。
直には見えない角度だけど、ちょうど向かいの鏡張りの壁に、その様子が映し出されていた。
「あいつ15のときからここにおるからね、その昔、便所掃除はあいつの日課でした」
ふたりだけになると、海堂さんはわたしにそんな説明をした。
「トシヤね、中学校の卒業式の晩に家出して、ひとりで大阪へ出てきたんですよ」
と、また秘密を明かしてくる。
「えっ、家出?」
「うん。中学出たら老舗の料亭で板前修業することになっていて、それがイヤで飛び出してきたらしいわ」
へぇ~、板前さんとか、トシくん似合いそうなのに。



