「梓さん、こいつの実家ね、京都で旅館やってるんですよ」
海堂という男は、そう教えてくれた。
「へぇ、そうなん?」
隣を見たけれど、トシくんはただうんざりとした顔で、小さくうなずいただけだった。
「それがね、めっちゃボロいんですわ。京都の山ん中にあるんやけど、あんな不便なとこ誰が行くねんっちゅー切なくも寂れた旅館ですねん」
「はぁ」
「別館まであるんやけど、そこがまた辛気くさい。とうとうつぶれかけて、トシヤに泣きついてきたんですわ。金貸してくれって。あ、昔の話ですけどね」
海堂さんはとても楽しそうに、そんな話をする。
「こいつの親父さん、悲愴な顔して『このままじゃ食材の仕入れもできんようになる』って言いに来て……。なっ、トシヤ」
イキイキとそんな話をされて、トシくんはさっきまでの勢いが、どっかへ飛んでしまったみたいだった。
「だからボクがポーンと貸したったんですわ、5千万円」
海堂さんはそう続けた。
「えっ、5千万?」
「うん。傷んでるとこ改装せえってね。見に行ったら廃墟かってくらいボロかったから、わろたわ」
そう言うと、海堂さんはソファに踏ん反り返った。
「なっ、トシヤ」
「……うん」
何だかすごく恩着せがましい……。



