「うちはお前んとこより閉店時間が早いねん。ラスト出して片づけとったらひょっこりやって来て、なんでか掃除始めてんねんけど」

「掃除っ?」

「お詫びもお礼も満足にできへんからって、さっきからずーっと、雑巾持ってオレの店磨いとる。こんな真剣に掃除するやつ、初めて見たわ、オレ」

「あ…はは」


ものすごく桂木さんらしいと思った。



「うっわ、グリストまで始めたぞ。どないすんねん、トシ」


西条さんの声が、半ば悲鳴のようになる。


「あはは、納得するまでやらせたってください。それ、フツーに朝までやってますから、うちの店長」

「あほか。オレ、家へ帰られへんやんけ」


耳に届くダミ声が、さらにデカくなった。


「どーせ帰っても奥さんとケンカなんでしょ?」

「はぁ? まだバレてへんわ、ボケ」


つっけんどんな言い方しかしないけれど、この人は桂木さんのことを……?


「あの、怒ってないんスか、桂木さんのこと」

「はぁ? 怒ってるに決まってるやん。殺されかけたっちゅーてんねん」


思い出したように憤慨している。


「でも辞めさせなかった」


オレがそう言うと、西条さんはちょっとま口をつぐんだ。