「まー、逆恨みもええとこやけどな」

と西条さんは笑う。


「でもオレ、サラリーマンキライやし、どうせイビリ倒す気やったから、ええでって引き受けてん」 

「えー、西条さん!」

「だってお金までもらえるねんで。こんなおいしい話ある?」


快諾、快諾、と西条さんはさらに笑った。



「でも、桂木さんは案外手強いかもしれませんよ」


どんなにイジメられても、ペコペコしたりニコニコしたり、動じてないもん。

西条さんの思い通りにいくとは思えんけど。


「ははは、ちょろいちょろい。あんなサラリーマン、オレが本気で脅したら簡単に尻尾を巻いて逃げてくわ」

「そうかな」

「でないとオレ、富樫に3万円返さなあかんやん。それは困る。あれはもう飲んでしもたし、嫁さんに怒られるやん」


あっは。奥さんいるんや。


「小遣い制なんですか?」

「うん。めっちゃ怖いで、うちの嫁。だからオレ、絶対に桂木を辞めさせるからな」


そう宣言すると、西条さんは口の端にいつもの不敵な笑みを浮かべた。


「まぁ見とき。あんな男信じる値打ちないってお前にも教えたるわ、トシ」


そうして西条さんは、グラスに残った酒をグイッと一気に呷った。