「西条さんはそんなことしたら形が崩れるから絶対ダメだって……」
桂木さんが言葉を続ける。
なるほどね。
「逆らったら、蹴られる?」
「ええ、まぁ」
「焦げても生焼けでも、蹴られるんやろ?」
「おそらく」
「だったら蹴られてもええから、焼き色を確かめればいい」
「え?」
「わからんねんからしゃあないやん。そのうち見んでもわかるようになるわ」
オレがそう言うと、桂木さんはホッとしたように笑った。
「ですよね」
「うん」
「スゴイな、トシくんは。大事なことと、そうでないことが、自分の中で実にはっきりとしている」
「何それ? 自己チューやって言いたいん?」
そう混ぜ返すと、桂木さんは「あはは」と笑った。
「んじゃ、焼けたら呼んで」
そう言い残して洗い場に立つ。
振り返ると桂木さんは、焼きかけのお好み焼きを、何度も何度もコテで浮かし、焼き色を確かめていた。



