「おはようございます」
厨房の奥に向かって、アズが頭を下げる。
「あ? ちょっと待て。あんた誰や?」
ずっと知らんふりしていたくせに、西条さんはこんなときだけ目ざとく立ちあがった。
「沢井梓です。トコワカ商会からお手伝いに来ました」
「あー」
露骨にイヤな顔をして、ジロジロとアズに目をやる西条さん。
「手見せて。指輪とかマニキュア禁止やから」
案の定、彼はそう言い放った。ヤバい……。
「いや、その子には、厨房の中でドリンクを作ってもらおうと思ってます」
先制してそう言ったつもりが、それよりも先にアズが手を開いて西条さんに見せていた。
「ふ~ん」
と呻って、衛生チェックは即終わる。
あれ?
「アズちゃん来てくれて、うれしい!」
うるるんがアズの手を取って、ピョンピョン跳ねた。
「うん、ジャマかなとも思ってんけど、外から覗いたら忙しそうやったから」
そう言ったアズの手を、うるるんの手からグッと奪う。
見るとその指先には、昨日見たネイルの花々はなく、桜貝のような爪が並んでいた。



