あれは去年、ううん、一昨年のことだった。


桜だから春。


入社何年目の花見の席だったっけ? 偶然隣り合わせた幸運にときめきながら、あの人と言葉を交わしたのは……。




花冷えする夜だった。


お花見スポットになっている会社のそばの公園で、ライトアップされた満開の桜が、白く妖艶に輝いてたっけな。


その一際明るく灯った花明かりの下で、わたしはあの人の顔を見上げていた――。




「映画?」


「うん。沢井さんはどんなのが好きですか?」


もう一度そう聞かれた。




たぶん場つなぎのための他愛のない質問。


それなのに、低く静かな声で問われると、何だか特別なことを聞かれた気がした。




ひらひらと花びらが舞い、その人の濃紺のスーツの肩にとまる。