「まだ帰らんの?」


もう一度聞いてみる。


「うん、もうちょっと掃除」

「さっきしたやん」


ホールも厨房も、ふたりで結構マジメに磨いたつもり。


「うん。グリーストラップの掃除しとこうと思って」

「あー……」


グリーストラップとは厨房の排水溝のしくみ。

排水に混ざって油分が流れないように、一旦せき止めて分離させるようになっている。

そこに溜まった油や生ゴミを取り除いて、キレイにしておかないと大変なことになるんだ。

つまり、ヤな臭いがしたり、排水管が詰まったり、そーゆーこと。



「うちの店のグリスト、相当ヤバいと思うで」


富樫さんたち、いつも掃除は適当やったからな。

グリストなんか排水が詰まって溢れてくるまで、ほぼ放置してたんとちゃうか。

臭いし汚いし、誰もやりたがらんもん。



「大丈夫。オレな、掃除は得意やねん」


なのにおっさんはそう言った。


「引っ越し屋のバイトやってたとき、系列のハウスクリーニング会社によく駆り出されとったから。飲食店のグリストはこまめにしとかなエグいねん」


な~んて、なぜか今日イチ胸を張る。