僕が嫌いな君が好き

森さんは俺の胸を"ドンッ"と強く押した。


「違うっ!私はっ…」


「もうええって言い訳とか、嫌いやから」


もう会わない。

濱田さんはそう言って、その場から立ち去った。

これでええねん。

これ以上森さんに、嫌な思いさせたくない。


「森さん、あのっ…」


「ふざけないでよっ!」


事情を説明しようとしたら、森さんが大声をあげた。

よく見たら彼女は泣いていて…


「なんで?なんで邪魔するの?藤崎くん…最低だよ」


泣きながら俺を睨みつける先輩を見ていたら、何も言えなくなってしまった。

もっと、違う方法があったのかもしれない。

俺のやり方は、間違っていたのかもしれない。

森さんを助けたつもりの行動も、俺の自己満足でしかなくて…

結果、先輩を傷つけたのは、間違いなく…俺だ。


「もう関わらないでっ!……大っ嫌い!!」


俺の目の前から走り去っていく先輩の背中を、見つめることしかできなかった。


「はぁ…ダサっ」


乾いた笑いが一つ風に流されていった。

彼女にフラれるのは、二回目や。

諦めたくなくて、ずっと今日まで思い続けた。

でも今は、もう…


「忘れよう」


「どーした竜聖?なんか言いたそうな顔してる」


教室に向かうとすぐ望が俺の変化に気付いた。


「なんもねーよ」


「嘘つくなってー」


教えろ教えろうるさくて…


「ほんまに、なんもないから…」


冷たくあしらってしまった。

すると望は、


「よしっ!次の授業切る!」


「はぁ!?」


「話すまで、離さんで!」


「…え、何言うてるん?」


「伝われや!!もうなんでもいいから来い!!」


望に強引に連れられ、中庭へとたどり着いた。

逃げ場がない事を察して、事の全てを望に話した。


「話さんでええの?森先輩、誤解してるってことやろ?」


「俺のやり方が強引だったから、傷付けたってことに変わりはないからな…」


言い訳みたいになるのは嫌だった。

だから、彼女には何も言わないでくれと伝えた。


「後悔、せえへん?」


あんなにはっきり大っ嫌い、って言われてもうたんやもん。


「せえへんよ」


「…そっか」


離れるしか、ないやん。


「はぁ〜、俺も恋してーーー!」


「声デカイ、笑」


きっと彼女は今頃、濱田さんを追いかけてる…

俺はもう、追うのはやめよう。