ー真由美sideー




最悪……

先輩がせっかく誘ってくれたデートなのに、私は…


「チケット…」


「え…?」


「チケット…ないです…」


きっと鞄に直接入れてたから、それで…

馬鹿だ私は。

何してんの…


「…ええよ!しゃーない!」


こんな時も先輩は優しくて、余計に涙が溢れそうだ。

そんな時、


「こんにちは!」


藤崎くんが目の前に現れた。

なんなの…タイミング悪…。

そう思っていたのに…


「二人で観てきて下さい!」


チケットなくしたと話したら手渡された。

有無を言わさぬよう、すぐに立ち去ってしまった2人。


「藤崎くん…」


「なんか…かっこいい子やな。無駄にできひんし、見に行こか?」


悪いことしちゃった…。

というか、藤崎くん。あんなに優しい子なんや…。

なんか、イメージ変わる。


「明日、一緒にお礼しに行こか?」


濱田さん、こんな時でも優しくて、大人で…

だけど、そんな濱田さん以上に、藤崎くんのことが気になって仕方なかった。

申し訳なさと、なんだかよく分からない、締め付けられるような感情だった。

藤崎くんのくれたチケットでミュージカルは見れたけど…

心にしこりがのこったままだ。

藤崎くんにも、お友達にも、濱田さんにも迷惑かけた…


「そろそろ帰ろか?」


「はい…」


夕飯も一緒に食べたけど、意識はどこかに飛んでいた。


「今日はすみませんでした…。たくさん、迷惑かけて…。楽しくなかったですよね…?」


涙目をぐっと抑えて、別れ際にそう告げると、


「ううん、楽しかったよ!」


「うそ…」


「いや、ほんまに!笑」


濱田さんは歯を見せて笑った。


「真由美ちゃんっていつも、すごい落ち着いてて凛としてて…」


私の目を見てまっすぐに話す。


「良い意味でさ、真由美ちゃん、あんまり感情外に出さんやん?」


私って、そんなふうに見えてるんだ…。


「今日はなんか、色んな真由美ちゃんが見れた気がするー」


そう言って本当に嬉しそうに笑うから、途端に胸が締め付けられて…


「…えっ、ちょ、泣くなって!」


思わず零れてしまった涙。

私の頬にそっと手を添えて、親指で優しく涙をぬぐった。


「濱田さん、優しいなって…」


「真由美ちゃんやからやで?」


「え?」


真っ直ぐきちんと立ち直して…


「真由美ちゃんのことが好きやから…」


真っ直ぐな目でそう言った。

私、こんなに迷惑かけたのに…

いい、のかな…?


「…私も、好きです……」