どうやら男と思っていたひったくり犯の正体は女だったらしい。彼女は狂った人形のようにひたすら笑い続ける。その姿はとても不気味で、とてもかわいそうに見えた。

「もうすぐよ、もうすぐ、《黄泉の扉》が開かれるのよ!!」

《黄泉の扉》そこはまだ浄化仕切れていない死霊の魂が彷徨い、集う『神の領域』。そしてその『神の領域』には何人も触れること叶わず…。

妃影という女は一体何を企んでいるのか、桐野はとにかくここから出ようと、手錠をガシャガシャといじくり始める。女は無駄よ、と言いたげに手錠の鍵を桐野の前で見せびらかしてもてあそぶ。桐野にしてみたらとんだ屈辱だ。鍵がなければ手錠は外れない。何か細いクリップみたいなものがあれば外せないこともないが、生憎桐野はそんなものは持っていない。妃影は次に窓に向かった。桐野は何をするつもりだとしばらく見ていると、彼女はにたりと口端を吊り上げる。そして彼女は窓を開き部屋に風が入って来た。その瞬間、桐野はやっと気づいたのかはっと顔を上げる。しかし事は遅かった。彼女は、ぶんと大きく腕を振って鍵を外に捨てたのだ。もう逃げられないと彼女は自分を見て笑っている。