「――――――嘘なんて…ついてませんよ。オレは」

どきっと心臓が高鳴った。同じ病室でカーテンの下ろされた隣のベッドから確かに聞いた。自分がいま一番聞きたかった声を。須田は恐る恐る視線をそこに傾けた。太陽の光で映るカーテンにうつった影。それが本当に彼なのか黒い影だけではよくわからない。確かめたい。本当にそこに彼が居るのかこの目で確かめたい。
一番会いたいヒト。

ずきりと全身に痛みがはしった。やはりまだ動くことはできないのか須田はゆっくりと上体を起こす。声が聞きたい。姿が顔がみたい。確かめたいという精神が痛みを消していた。もうすぐそこにいる。須田は恐る恐る手を伸ばしカーテンの端を掴むとそのまま勢いよく引っ張った。露になる影の正体に胸が鳴る。

そこにいた。すぐ近くにきみはいつも。

カーテンを開けるとそこには確かに桐野がいた。頭には包帯を肩や腰ほかにもたくさんといったぐらいに全身を包帯まみれにして、確かに桐野はそこにいたのだ。
生きていた。そばにいた。死んでなんていなかった。

須田の瞳からは涙が流れ出す。よかった、ほんとうによかった。そんな須田を見た桐野はまた謝った。呼吸器から発せられる彼の声はとても弱くて、いまにもコロリといってしまいそうなそんな気にさせられる。