桐野は少し霊力があるせいか瘴気に耐えられている。しかし女の子のほうはどうだ。倶召神の姿も見えていない。霊力もないのにいまここに平然と立っている。どういうことだ。この女の子は本当に人間なのか。言葉も喋れない字も書けない、しかしそれは殺人現場を目撃してのショックのせいだ。けど、どうしてか草間にはこの女の子がただの人間には思えない。女の子から感じる僅かな神気。これはいったい…。

「草間?」
「――仕方ないな」

草間は指先を桐野警部補の額に当てて呪文を唱える。また無闇に術を使ってと倶召神はもう何も言わず見ているだけ。

「すまないな。でもこれはあんたの為でもあるんだ。桐野警部補」

ぐらりと倒れる桐野警部補の身体を草間は抱えて地にねかす。
もう誰も、傷ついてほしくないんだ。

「この子はどうするんですか?」

女の子は倒れた桐野の傍でびくびくと震えている。自分もこうされると思っているのだろう、草間は女の子に近づく。怯える女の子、それに手を出そうとする草間。

「待ってください」

と声を出したのは千秋だ。
千秋は女の子に近づき震える女の子の頭を優しく撫でてやる。最初は頑なだった女の子だが、千秋の温かさに触れて安心したのか女の子は千秋の体にとびついてきた。にこにこと笑う女の子。その笑顔は誰をもうれしくさせる温かいもの。

「わかったよ」

怯えた子供に手をかけるほど非道ではない。鳥居前に桐野を置いて、草間たちは前に進むため貴船神社本宮第二鳥居をくぐり階段をあがる。上がっていくごとに体が重くなり息がむせてくる。女の子も苦しいのか歩きが遅くなってきた。

「あそこに人影があります」

と千秋が言う。