「で、草間は警察が倒れていたから駆けつけてくれたわけ?」

会って一秒もたたない間に呼び捨てをかます警察官に草間はこくりと静かにうなずく。なんだか意外な反応であると草間は思う。本当ならもっとこう何か色々と尋ねてきたり、もっとこう慌てふためいてくるのではないかと思ったからだ。けれど彼はその逆に、すごい冷静であまりものごとを深く考えない性格ならしくその分ではこちら的にもかなりよかったといえるだろう。城央署の桐野幸四郎警部補、恐るべし。

「詳しい話はあとで、今は早く病院に行くべきだ。桐野警部補も少し休んだほうがいい」
「皆どうしちまったんだ?俺はこんなにぴんぴんしてるのに皆体温が異様に熱い」

それもそのはずだ。霊力のないただの人間がこの重く息苦しい瘴気に耐えられるはずがない。しかしなぜだ、何故突然こんなに瘴気が濃くなった。

「女の執念ほど、哀しいものはありませんね」

笹木がぽつりと呟く。

女の執念…か。……いや待て待て、どうして千秋がそんなことをいうんだ。

「どういう事だ千秋。どうして相手が女ってわかる」

仮にも記憶をなくしている彼が女と言った、記憶が戻ったのか。笹木は、なんとなくですがと言って空を見上げる。瘴気の渦のせいもあり空は今暗雲に覆われており星は見えない。重くどんよりとした空気だけが肌に伝わっていた。