その手つきに感動を覚え、彼女の動きを凝視していると呆れたように溜息を吐き、小さな子どもに言い聞かすように彼女は言葉を発する。

「もう片付かないから少しは動いてよ。もうバンドの練習、行かなきゃでしょ。早くやらなきゃ」

一瞬の間、しかしそれは時計の針の音で直様現実に引き戻された。
やばい、忘れてた。慌てて時計を見るともうちょいどころかもう出なければ間に合わない。

「あ、アヤさんごめん、俺もう行くわ!先に夕飯食べてていいから!」

玄関側に立てかけている楽器を肩にかけ、慌てて飛び出す。
実家を出て早3年、口にする必要性がなかった言葉を口にして何となく、何となく心が浮つくような心の軽さを覚えながら、駈け出す。

「行ってきまーす!」

「行ってらっしゃーい、気をつけてね。
……咲ちゃん!」