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この家は何から何まで品が良く、一般的な家と比べるのは恐れ多いと思うほどだ。




ピンポーン、と、家の一部である行儀のいいチャイムが鳴った。




*蓮司*「さて、どっちだろうなぁ。マダムチェリーか月影家か」




それは、夕食の準備を始めた直後だった。




私はスミレに会えることを心待ちにし、エプロンで手を払いながら玄関まで走った。




*歌凛*「スミレーーー!!」




ドアをさっと開け、スミレを抱っこする気満々で手を広げた。




*二階堂*「はぁ〜い!って、歌凛ちゃん、何してるの?」




うっ……。私は手を大きく広げたまま硬直した。




完全に二階堂さんが出てくる可能性を消し去っていた。




恥ずかしくてどうすればいいかわからず、私は手を広げたまま静かに謝る。




どうすればいいのだろう、この状況をどう対処すればいいのだろう…。




わけもわからずロクな思考ができない。




*蓮司*「あ、オバサ___」




*二階堂*「ねえ蓮ちゃん、ここに年増な女性なんてどこにもいないと思うんだけど?」




*蓮司*「や、ヤッホーマダムチェリー、ささ、どうぞお入りください」




私はといえば、未だに硬直が解けないでいた。




私の存在を完全に空気にする事で話が進んでいくのはありがたい事だが、私はいつになったら硬直が解けるのだろうか。




今の私はさながら色付きの彫刻だった。




*二階堂*「ええ、もちろんそうさせていただくわよ。ここは私のお家なんだから」




二階堂さんが私の手にカバンを掛けながら玄関へ入っていく。




*蓮司*「どうぞどうぞどうぞ」




こうなったら仕方がない。




二階堂さんがドアを閉めきるか私が見えなくなるまでこの状態のまま保っておくしかないだろうという結論に私は達した。




あと少し、あと少しで二階堂さんは……




*お母さん*「確かこの辺りだったわよね」




*スミレ*「お姉ちゃんにはいつ会えるの?」




そう思ったその時、スミレが庭にひょこんと現れた。




*歌凛*「スミレーーーー!会いたかったわ!」




呪縛から解き放たれたかのように、私の石化は一瞬にして解けた。




最初にイメージしていた通り、スミレに向かって飛びつき、思いっきり抱き上げる。




*スミレ*「お姉ちゃん!」