きっと、私がズケズケと土足で聖司くんの家族の事情を聞いても、それを聞くことによって何かの役に立てるわけではないのだろう。
しかしそれでも、悩んでいることを一人で考えるよりは共有した方が楽な気がした。
*聖司*「意外と野次馬根性丸出しですね…」
*歌凛*「ははは、それはもう入居当時から盗み聞きしてるんですから今さら。」
あんまり思い出したくないけども、自分が好奇心旺盛なのは間違い無さそうだし、訂正はしないでおこう。
*聖司*「…まあ、秘密にするようなことでもないですからいいですが。少し長くなりますよ?」
聖司くんはやや面倒くさそうにそういった。でも、嫌そうには見えない。
私は返事をする代わりに頷いてみせた。
長くなるのは別に構わない。私のミッション__二人の服のサイズを知ることはもう成功したのだから、急ぐ必要はなにもなかった。
私が頷いたことを確認すると、聖司くんは眼鏡をクイッとかけ直して、写真を手にとり、それを見ながら話し始めた。
*聖司*「私の兄と姉は、親に決められた通りのレールしか歩かず、付き合う人間の誰も彼も、友達さえも自分で選んだことはありませんでした。
仮に選ぼうとしても、最終的に付き合う人間を決めるのは両親です。
そしてもちろん私も例外ではなく、『お前は黒羽家の人間なのだから』と言われて生きてきた人生でした。
兄も姉もそれで構わなかったのでしょうが、私には小さな檻の中で飼われた犬のようなその生活に、我慢ができませんでした。
いえそれ以前に、兄達はレールの上を歩くメリットを十分に理解していましたし、そのレールを歩く資格も能力も十分に備わっていました。
が、私には到底歩けるレールではなかった。あまりにも次元が違いすぎたのです。」
聖司くんは、聞かせる相手である私を見てはいなかった。
写真を、写真の中の仮面を被った家族を、写真の中の自分を見つめていた。
なにか思い出しているかのような表情で、一人言を言っているだけのように思えた。
一人言、つまり、彼自信も自分の言葉に反応し、感傷し、その一つ一つを噛み締め、自分に問いかけているのだと。
*聖司*「ですから私は、彼らが敷いた、安全で完璧で絶対的なレールを飛び越えて、違う道を歩んでみました。
家を飛び出し、友達、いえ、親友と共にシェアハウスで暮らし、シェアハウスに一番近い高校へ入学し…。
ちなみに、蓮司が花野高校へ入学してきたのは偶然です。
なぜあの頭脳でここへはいれたのかは全くわかりませんが、人というのは本気を出せばなんとでもなるものですね。」



