祭の会場となっていた施設の外へ出ると、すでに撤退が進んでいる門の手前に大層な馬車が待機していた。
ゴドーはわたしを抱きかかえたまま馬車に飛び乗り、天井からぶら下がったランプに火を灯すとすぐさま、重厚な窓のカーテンをピシャリと閉める。
そして馬車はゆっくりと揺れ、動き出した。
「……」
ランプに灯るオレンジ色の小さな火が、外からの光をすべて遮断された暗闇の中でゆらゆらと揺れている。
馬車の中は静かだった。
わざわざ買いに来たというのに、ゴドーはそれほどわたしに興味はないらしい。
向かい合って座る彼は、出発してからずっと腕を組み目を閉じていた。
商人が旦那様と呼んでいたからそれなりに年のいった客とばかり思っていたけれど、こうして近くで見るとかなり若く見える。
ひょっとしたらわたしと年があまり変わらないかもしれない。
……「リリオメント」って、何だろう。
どうして、不良品のわたしを買ってくれたんだろう。
彼のローブに包まれたままじっと彼の整った顔を見つめていると、その瞼が薄く開き翠の瞳と視線が交わった。
「……怖かったろう」
掠れた声で彼は囁き、こちらに向かって手を伸ばす。身動きひとつしないわたしの頭に触れてきた手の平は、ひやりと冷たく、……なのに、ひどく安心する。


