「ああ旦那様申し訳ない、リリオメントはもうすべて売れてしまったのです」
「……彼女は?」
彼が視線で、獣と共に檻に閉じ込められているわたしを商人に示す。
商人はわたしの方を振り返ると、ああ、と肩を竦めて笑った。
「あれもリリオメントとして売っていましたが、値下げしても買い手がつきませんで。純潔じゃないんです。とても旦那様にお売りできるようなもんじゃありませんよ」
……目眩が、した。
そうだ。わたしは他の少女たちにつけられた値段よりも、安かった。
不良品だったんだ、最初から。ここへ来るずっとずっと前、身体を初めて切り裂かれたあの日から。
だから売れ残った。
だから、こんな死に方しかできない。
格子から手を離し、未だ自由になれず低く唸り続けているケルベロスに向き直る。
――こんな死に方しかできない、って?
そう、わたしはずっと、死にたかった。
一刻も早く、この痛みと苦しみだらけの世界から消えてしまいたかった。
誰からも愛されなかった。
誰からも必要とされなかった。
こんな空っぽの命、こんな汚い体、少しだって惜しいものか。
血も肉も骨も、跡形もなく消える。
これが、わたしに一番相応しい最期だ。
動けずに痺れを切らすケルベロスの代わりに、こちらから食べられに行ってやることにした。
一歩ずつ、ゆっくりと、両手を広げてその巨大な体躯へと近づいていく。


