女性がいなくなり、広い部屋の中で再びゴドーと二人きりになった。
ちらりと後ろを伺うと、シャツの袖ボタンを外し、濡れた銀色の髪を掻き上げた彼と目が合う。
「……ゆっくり休むといい。僕は夜まで寝るよ。サラにそう伝えておいてくれ」
彼は静かにそう告げると、テーブルに置かれていたグラスを煽り、中に入っていた液体を一気に飲み干した。
そしてそのまま、覚束ない足取りで広間から去って行く。
やがて鳴り響いていた足音は消えた。
世界の音は、暖炉の薪の燃える音だけになった。
”ゆっくり休め”
……そんなこと、初めて言われた。
想像していたのとあまりにも違う扱われ方に戸惑いながら、もう一度、広間を見渡してみた。
暖炉の取り付けられた壁を視線でなぞっていくと、葉の連なるような模様が施されたドレープカーテンに、ふと、目が留まる。
……雨が降っているとはいえ、今は朝だというのに。カーテンが固く閉ざされているのはどうしてだろう。
馬車の中でもそうだった。
夜明けが近いからと、ゴドーは急ぎ足でわたしを施設から連れ出し、――馬車に飛び乗るなり、すぐに窓のカーテンを閉めた。
『もうとっくに朝』
わたしを連れて屋敷へと戻った彼に、女性はそう呼びかけた。
朝を避けているんだろうか。
わたしを「リリオメント」と呼ぶ彼らにとって、夜明けは、
……”朝”は、何を意味している?


