――部屋に入りかけたところで、わたしは足を止めた。
その広間にも、玄関ホールのものほど大きくはないものの天井からシャンデリアが下がっていた。
閉め切られた幅の広いドレープカーテン。重厚感のあるサテン地のソファの前には、パチパチと炎が揺れる煉瓦造りの暖炉。
その奥にある白いクロスのかかった長いテーブルに、”彼女”は食器を並べていた。
「……まあ、」
肩紐に細かなフリルがあしらわれた白いエプロンに、ネイビーのロングワンピース。
そんな使用人のような格好をしたふくよかな初老の女性が、ゴドーの背後でじっと佇むわたしの姿を見つけ、瞬きをする。
「……ジル、こちらのお嬢さんは?」
「リリオメント。最後の一人だった」
濡れた帽子を脱ぎ、タイを緩めながら、ゴドーは淡々と女性の質問に答える。
さらに目を丸くした彼女は、手に持っていた皿をテーブルに置いて、こちらへ歩み寄ってきた。
そしてわたしの前で小さく屈み、ふんわりと、目尻を下げる。
「初めまして、寒かったでしょう。さあさあこちらへ来てあたたまってちょうだい」
彼女はわたしが纏っていたずぶ濡れのローブを脱がせ、晒された肩を優しく抱くとわたしを暖炉前のソファへと導いた。
そして、ソファに座ったわたしの肩に厚手のストールをかけてくれる。
「お腹は空いてない? 何かあたたかい飲み物を持ってきましょうね」
そう言って微笑み長テーブルの奥へ続く部屋へと向かう彼女の背中を、わたしは不思議な気持ちで見つめた。
頭が追いついていかない。
……なんだかわたし、お客さんみたい。


