どこへ行ったって同じ。
こんな身ひとつじゃ、真っ当に生きていくことなんてできないのだから。
死に場所が変わっただけだ。そう自分に言い聞かせて、一息に門扉を潜る。
背後で、ガシャンと扉が閉まる音。――錆びた鉄の響きに震える肩を必死にローブで隠しながら、わたしは前を行く彼の背中を追った。
屋敷の正面にはアーチ状に石を組まれた広いポーチがあり、その奥に大きな玄関扉があった。
木製の大きな扉を、ゴドーがゆっくりと開ける。足を踏み入れた空間に、わたしは思わず息を飲んだ。
わたしたちを出迎えたのは、高い天井から下がる煌びやかなシャンデリア。
大きな花が咲くようにいくつものガラス細工を頭上に広げるそれは、自ら放つ光を反射して、止むことなく輝いている。
広い玄関ホールには一面に青い絨毯が敷かれていて、白く塗られた壁に沿って数々の彫刻が並べられている。
正面には階段が続いていた。
「――ジル? 帰ったんですか?」
屋敷の不気味な外観からは想像もつかなかった光景に目を見張っていると、玄関ホールにどこからともなく女性らしい声が響いてきた。
ゴドーはその声に返事をせず、正面を向かって右に曲がりながら進んでいく。
「もうとっくに朝ですよ。雨が降らなければどうするつもりだったんです、私はあれほど早く行けと言ったのに――」
声が、段々と近づいてくる。
ゴドーの後に続いて玄関ホールを右に抜けると、少し廊下を歩いた先に大きくひらけた部屋が見えた。
「こんな時間じゃもうリリオメントもいなかったでしょう。今夜はちゃんとドラクロワ先生のところに行って、――」


