『シドが死んでパンクは死んだんだ』
これは俺のじいちゃんが教えてくれた。この時はまだわからなかった言葉が、38になった今は心の底から理解している。

「吉山ぁ~吉山ぁ~!!!!」
という社長和田佐助の声にハッと現実にもどされた。

「はいはい吉山君、君が休みたいのは解る。しかしなぁ君…早く仕事場に戻らんかぁ!!!!」

『うるせー馬鹿社長』

と思って

「はい」

と頼りない返事を残し、仕事場に戻った。
仕事場ではもう一人の社員木田さゆりが忙しなく動いていた。

「おいっ!!新人。そこの黒TLを30枚追加…違う、Dの欄」

と仕事場に着くや否や指示を出してきた。
この女は唯一吉山と呼ばずに新人と呼ぶ。確かに吉山は18の高卒新人だ、しかし新人と呼ばれたのは最初の挨拶で社長に呼ばれたのが最後だった。

『にしても…なんでフェスって夏なんだ?』

と流れる汗をタオルで拭きながら思った。
吉山が勤める㈱WIR(ワダインターナショナルレコード)は近年まれに見る若手社長を持つ大企業である。
全社員500人から広報担当部長と広報担当新人が選ばれて夏の音楽フェスティバルの物販係に任命される。