「違う違う、小さい頃よく遊んだスポーツってなんだった?」

「…は。なに突然。」

なんの関係もない話から、患者さんの心を少しずつ開いていく。

「僕はヒーローごっこなんかしてたなぁ。
ほら、公園の滑り台の上に立ってさ、家のふろしき勝手に持ち出して、よく怒られたっけ。」

「…なにそれ、だっさ。」

「そうだね、今思うと恥ずかしいよ…。
佐那斗君はなにして遊んでた?」

この患者さんは、葉塚佐那斗(ハヅカ サナト)君。
高校2年生なんだけど、たぶん悩みは思春期なんかじゃない。

この子の、身体の傷。
殴られたような痣や、切り傷。

家にいたくなくて飛び出したけど行く宛もなく、施設に逃げ込んでそれからここへきたって感じだな。

「別に、関係ないだろアンタには。」

「そっか…」

施設の人が心配しているらしく、一週間のうち一度、金曜日の午後4時に必ずここへ来る。

今回の診察は…14回目だ。

最初は一言もしゃべってくれなかったし、少しずつ進歩してる。

「…マヤ。」

「え?」