「あんたの番よ」


起き抜けから何を言い出すのかと思って、「何が? 」と耳を傾けた。

シャワーから出てきた直後にかかってきた電話の主は、一つ年上の姉、結華(ゆいか)だった。


「何の番だよ。朝っぱらから」


相変わらず主語なしで喋り始めるんだな…と呆れ返った。
「ウルサイ!」と結華は一言叫んで、予想もしてなかった言葉を吐いた。


「おばあちゃんの面倒を見る番、次は剛よ!私は1ヶ月頑張ったから、今度はあんたに任せるわ!」

「はぁ⁉︎ ばあちゃんの世話⁉︎ …どうして俺が見るんだよ。咲子さんがいるだろ⁉︎ 」


咲子さんと言うのは、久城家のお手伝いさんだ。
両親が亡くなる前から我が家にいて、家事一般を取り仕切っていた。


「あんた咲子さんがいい年なの忘れたの⁉︎ 御歳75歳になるのよ⁉︎ そんな高齢者に、高齢のおばあちゃんのお世話ができると思う⁉︎
…それにもう引退してもらって何年にもなるのよ⁉︎ 知らないの⁉︎」


「……知らないよ」


そもそも、この何年間もまともに日本で暮らしてなかった。仕事の関係上、海外を飛び回ってることの方が多くて、ほぼ日本にいない状態が続いていた。


「その調子じゃ、おばあちゃんの物忘れが酷くなってるのも知らないんでしょう⁉︎
結構、深刻なのよ⁉︎ 昔に比べてかなり出来ない事が多くなってるし、家の中でも平気に迷子になっちゃうんだから…」


「えっ⁉︎ 何だよそれ!初めて聞いたぞ⁉︎ 」