『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。

「大した物入ってないわねぇ…」と呟きながら、着々と食材を探し始める。
その手際の良さに唖然としながら、さっきまで見ていた彼女の姿は何だったのか…と考えた。



あたしのことを、ずっと『ユイカちゃん』だと呼んでいた。

「おままごと」と言いながら選んだ道具は、まとまりがついてないように思えた。

「あやとり」については延々１時間以上も付き合わされ、挙げ句の果てにはお人形相手に子守唄三昧。




（ーーどう考えても、認知症だと思ったんだけど……）


キッチンに立つ姿は、まるで別人の様に生き生きとしてる。
見てる限り、手順も調味も間違った所はない。

間違ってないどころか、確実にあたしよりも上手くて器用そうだと思う。



（くそぉ…負けてる。…あたしの方が絶対に下手くそだ……）


がーん…と頭の痛い思いを抱きながら出来上がった料理はオムライス。

チキンライスの上に置かれた卵は半熟で、とろける様な仕上り具合だ。



「美味しそう…！」


目を見張るあたしをニコニコしながら見てる。
その目元が『ゆる彼』と似てて、あたしはきゅん…と胸が鳴るのを聞いた。



「ユイカちゃんの大好きなオムライスよ。早くお食べ」


ホカホカ…と湯気の立つオムライスを差し出された。
自分の分は作らないのだろうか…と、おばあちゃんに尋ねた。


「おばあちゃんは食べないんですか？」


敬語で話すあたしを、不思議そうな眼差しで見つめる。