どこへ行くのかと後を追うと、玄関先に置いてた荷物の中から赤い毛糸の糸を取り出した。


「ほーら、見ーつけたっ!」


嬉しそうに笑う姿は無邪気だ。
お年寄りが言うところの『二度幼な子』という言葉が思い浮かんだ。


「あやとりしよう!ユイカちゃん、こっちへおいで」


ちょこん…と座ったのは、玄関マットの上。


この後1時間近く、あたしはおばあちゃんのあやとりに付き合わされたーーー。




「ゼーハー…」と、息を切らしたのはトイレの中へ駆け込んだ時。
冷たい玄関先の床の上で、ずっとトイレに行きたいのを我慢してたからだ。


「はぁぁぁぁ……」


お腹がすっきりしてトイレから出てくると、おばあちゃんの姿はマットの上にはなくて、あたしは慌ててキッチンやリビングを探し回った。

何処にも姿は見当たらなくて、玄関に一番近い部屋のドアから開け放して探し始めた。



「おばあちゃん?何処にいるの?」


まるで隠れんぼだな…と思いながら、一つ一つの部屋を開けて回る。

寝室のクローゼットの中も調べ廊下へ出てきた時、歌声に気づいた。



向かい側の和室の襖を開けると、おばあちゃんは洋風なドレスを身に纏ったビスクドールを抱いて唄っていた。

まるで子供をあやすかのように、髪の毛を撫でながら歌う外国語の曲。


腕の中に抱かれた人形はまるで、育ててきた孫達のようにも思える。


その穏やかそうな表情を見つめて、ぺたん…と腰が抜けて座り込んだ。