「……行って差し上げてください」


落ち着いた声に振り返った。

咲子さんは微笑みを浮かべ、あたしの手を取るようにして立ち上がらせた。


「大奥様は、この家で一番の権力者です。例えご病気を患っておられても、それだけは絶対に変わりません。
仁様の言葉はお気になさらず、剛様を慰めて差し上げて下さい。
…ご自分から本宅へ足を運ばれたのなんか何年ぶりか忘れるくらい久しぶりだった…と、運転手の中田が申しておりました。
愛理様にご自分の居場所を見せたかったのだと思います。きちんとした家族として、久城に迎え入れようとしたんです。
連れてこられて下さい、ここへ。…皆さんのことは、それまでお引き留めしておきますから…」



ーー誰よりも強い味方がいると思った。

安心してボロボロ泣き出すあたしに息を吐いて、結華さんが付け加えた。



「あたしじゃなくて、貴女がこの家の家族みたいよ。おばあちゃんにとっては」


「ねぇ?」と呆れる様に聖さんに同意を求める。


「お前がばあちゃんに冷たく当たってるからだろ?俺に聞くなよ」

「結華が兄弟思いだったなんて話、俺は初耳だけど〜?」


ふざけながら呟いて、類さんが苦笑する。

苦々しい顔つきで聞いてた仁さんは、咲子さんの言葉に反論できないみたいだった。