……あたしなんかに言われたくないでしょう?

それでも貴方は国家試験に合格した医師なんだから。


これからだって遅くないのよ。

いいドクターになって、患者や家族に心から慕われる人になって。


あたしがしまったな…と思うような医師になって、見返してみたらいい。


久城さんのことを、そんなにも苦々しい顔で睨むならーーー。




「…愛理、帰ろう。車を待たせてあるから…」


あたしの肩を抱いて、久城さんはスタッフルームを出ようとする。
夜勤者は各部屋を見て回り、誰も目覚めていないことを確認して胸を撫で下ろした。



「ご迷惑をおかけしました…」


紳士的な態度で謝り、彼はエレベーターの暗証番号を押した。


「えっ…久城さん、その暗証番号は…?」


ちらっと夜勤者の顔を見た。
教えてないよ…という感じで、彼女が首を横に振る。

きょとん…としてるあたしに向けて、彼が戯けるように笑った。


「当直のおじさんがタッチパネルを操作してるのが見えたんだ。ここの防犯システムは甘いね。こんなんじゃ、いざという時困るよ」


あたしの手からバッグを取り上げ、ほら来た…と背中を押す。

袖口からミントに似た香りが漂う。

あたしはその香り嗅いで、大いに胸がスッ…としていたーーー。





(…剛さん…ありがとう…)


口にできない言葉を心の中で囁いた。

誰も助けには来てくれない…と覚悟はしていた。