『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。

コンコン…と繰り返しノックする人の顔を確認するまでもない。

あたしはこの人のことをよく知ってる。


間違って婚姻届まで書いた…



『ゆる彼』じゃなく『ユメ彼』だーーーー。






「…愛理さん?…愛理さんだろ?…どうした?こんな所に車を停めて…」


心配そうに尋ねる声がガラス越しに聞こえる。



………そんなふうに気軽に声をかけてもらえる立場じゃないの、あたしは。



貴方に似つかわしくなんかないの、ちっとも。



…知らん顔されても当然なの。


素通りされて当たり前なの。


……格差を知って怖気づいて、


逃げ出してしまった人間なのだから………






ーーーなのに、見つけてもらったことが嬉しくなってる。



助けて欲しい…と願った人がここにいる。




ーー今、目の前に………。






無意識のうちにパワーウインドのボタンを押してた。

下がっていくガラスと同時に、車内に降り込んでくる雨粒。

さあさあ…と流れる様な水音と一緒に、初めて彼に抱きしめられた時に嗅いだミントに似た香りを感じた。




何かが胸に迫ってきた。


容易に涙が溢れ出す。




(やっぱり……あたしは、間違ってなんかない……)




探し求めてたのはこの人だ。


追い続けてた理想は、やはり彼だーーー。



『ゆる彼』でも『ユメ彼』でもない。








「剛さん……っ!」





ぎゅっと抱きついてしまった。

ふっくらとした体つきに、ユルユル…と心が溶けていく。





……やっぱり、この人しかいない。



あたしの好きな人は、




剛さんだけだ。…………