『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。

「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ……」


息を切らして走る廊下。

こんなに長かったっけ。

いつもは引きずるように足を運んだ。

でも、今は、完全にダッシュしてる。



非常口の暗証番号を押して外へと逃げ出した。


辛うじて持ち出せた自分の手荷物から、車のキーを取り出す。

ロックを外し車内に乗り込む。

急いでアクセルを吹かし、猛スピードで発進したーーー。





……またしても、施設から逃げ出す。

追いかけてくる過去の恐怖を背に、ただひたすら車を走らせる。



(誰か…助けて!……怖くて仕方ないの………!)



ブルブル震えながらハンドルを握ってた。

涙で前がよく見えない。

夜の街中には雨も降ってる。

フロントガラスに写ってるのは雨の雫?それとも、これはあたしの涙なの?ーーー



カチカチ…と鳴るサイドランプの音に気付いたのは、街中を走り抜けて小高い丘の麓に着いた時だった。

さっきよりも小降りになってる雨にほっとする間もなく、コンッ!と叩かれた窓にビクついた。



恐る恐る運転席側の窓を振り返った。


外には大きな体をした人。



(誰…⁉︎)


白いカッターシャツの襟が見える。
黒とピンクとイエローのチェック柄のネクタイを絞めてる。
黒っぽいスーツの上にカーキ色のコートを羽織って、前ボタンは全開。

見たことのあるタイピンだと思った。
金色の細い棒の先に付いてるのは、紛れもなくダイヤだーーー。